BIRD SONG JOURNAL / 踊るソテツ

2019.6.26

ここ奄美には、蘇鉄(ソテツ)というトゲトゲした濃い葉っぱを持つ、南国を感じさせる常緑低木の植物を1年中見る事ができる。トゲトゲした葉っぱの先端に実際に触れると、チクリと痛い。

ソテツは梅雨の時期に、無垢な顔に化粧をし、色をつけ花を開花させる。
花には雄花と雌花があり同時期に花が咲くのだが、1年の間でこの梅雨の時期にしか見ることができない。
雌花は全体にオレンジ色で、大きなキャベツくらいになるが、近くで見ると火の鳥のような形で燃えるように重なり、わさわさと咲いている。
雄花は浅い芥子色の鱗片の花を大きいトウモロコシのような松かさに付け、雨降る空に向かって真っ直ぐと背を伸ばす。
麦わら帽子を被って踊る親子、ブラジルのカーニバルの衣装を纏った派手な踊り子たち。その形は色んな姿に見えてくる。

1本のソテツの幹に花が咲くのは5年から10年に1度。寒さに弱いこの植物は、強い日差しをいっぱいに受け、幹を太くし真冬の寒さにも耐え、時には台風の潮風に倒れたりもするが、数年に一度自然のタイミングを計らい、満を持していっせいに開花する。

雄花も雌花も交え、化粧を施し、衣装を纏い、待ちに待ったカーニバルのその日の天候は決まって雨。雲の切れ間もない。
一体なぜこのタイミングなのかは分からないが、そこがまた島っぽいのかもしれない。
しかし、ソテツ達はおかまいなく踊る。どしゃぶりの中、傘もささずに踊る。雨の音がチヂン(島の太鼓)となり両手をかざして、梅雨の間踊り続ける。

やがて、梅雨が明け夏が訪れる頃、雄花は力尽き枯れてしまい、雌花は朱色の沢山の種をつけ、カーニバルは終わる。
また今年もこの愛おしい情景を見て、私は通勤途中に妄想にふけ、一人にやける。

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