奄美大島といえばこのアマミノクロウサギを思い浮かべる方も多いだろう。
奄美大島は、琉球弧と呼ばれる大半が珊瑚礁隆起の島々の中央付近に位置している。
199余りあるこの島々の中で、奄美大島・徳之島・沖縄本島(北部のやんばるエリア)・西表島の4島は
200万年前に大陸から切り離されて形成されたことにより、残された生物がそれぞれの島で独自の進化を
遂げていると考えられている。
奄美大島にも固有の動植物がたくさんある中、太古のうさぎの姿を残していると考えられているアマミノ
クロウサギは、なんとも平和なこの姿からすっかり島のアイコンになった。
しかしながら、彼らはあわや絶滅に向かうか?という試練の時を経験した。
もともと南アジアに広く生息する哺乳類フイリマングースは、1910年にハブなどの駆除を目的として
インドから沖縄島に導入され、奄美大島には1979年に運ばれ、数十頭が放獣された。
しかし当初の想定とは異なり、昼行性のマングースは夜行性のハブの天敵とはならず、代わりに夜行性で
昼には巣穴で寝ているアマミノクロウサギほか、島に生息する多くの希少生物を捕食してしまうことに
なった。年に2回の繁殖をすると言われるマングースはみるみる分布域を広げ、ピーク時には10,000頭
まで増えたと推定されている。
生態系への影響調査などを経て2000年から環境省による本格的な外来種防除事業が開始。
2005年には奄美マングースバスターズが結成され、綿密な事業計画を元にマングースの分布域を着実に
狭め、とうとう平成30年の1頭の捕獲を最後にマングースの捕獲0が続いている。
この事業では外来種防除以外にも希少種の分布域調査等もなされており、マングース捕獲頭数の減少に
反比例する形で希少種の個体数の増加と分布域の拡大が確認されている。
確かに島の中央部付近を中心にたくさんのマングースが捕獲されていた10年前と比較して、現在アマミノ
クロウサギとの遭遇率は格段に上がっている。
世界各地を見ても、外来種の根絶に至ればこれは稀に見る快挙である。逆に外来生物の侵入はそのくらい
厄介なもの…ということでもある。
私が島に住まいしているたった十数年の間にも、海岸に漂着するプラスティックごみはどんどん小さく
脆くなり、シラヒゲウニはほとんど取れなくなり、護岸すれすれに産卵したウミガメの卵が台風の高波で
一掃されてしまう様子を見たり、家畜が野生化した野山羊が山肌の植物を食べてしまったことで山が崩れ
やすくなっていたり‥と、人間のエゴによる環境破壊の影響が嫌でも目に見える。
島で悪者扱いされているマングースもまたその被害者である。
文明が発展し、人や物の行き来が簡単になり、人が便利に暮らせるようになったことで、この長い地球の歴史の
なかで育まれたものを一瞬にして無かったことにしてしまいかねないということを私たちは忘れてはならない。
この呑気なウサギがいつまでもこの島で暮らしていけますよう。
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