BIRD SONG JOURNAL / 新南風(アラバイ)の季節

2021.7.6

5月上旬から続いた梅雨が明け、奄美大島の長い夏が始まりました。

亜熱帯性海洋気候の奄美。本土と違う季節の移り変わりはとても興味深い。

例年奄美ではゴールデンウイーク明けに梅雨入りし、6月末頃に梅雨が明ける。
年間降水量が約2,800mmもある雨の多い奄美大島で、梅雨は「ナガシ(長雨)」と呼ばれる。
各季節の訪れは渡鳥の飛来や植物の開花などの自然現象とともに季節感を辿る雨や風の名前が付け
られており、例えば「ナガシ」というひとくくりの季節の中でも詳細に季節感を分けた呼び名を持つ。

5月初め、梅雨入りか?という頃に先立って起こる大雨現象は「ハシリ」と称され、この雨は本格的な
梅雨の雨と区別し「オーナガシ(大流し)」とも呼ばれている。

梅雨入りの頃には夏を告げる渡鳥であるリュウキュウアカショウビンが飛来し、朝夕美しい鳴き声が
里山に響く。
サネン(月桃)やカシャ(アオノクマタケラン)の花も咲き始め、初夏とは明らかに違う悪天候や雲量の
増加、湿度の急昇や日照時間の減少が起こってくるが、降水量もやや増加するにとどまることが多い。
この頃は旧暦4月にあたることもあり「シガツオーナガシ」と称され、晴天の日は初夏の延長のような
爽やかな陽気となる。

5月末から6月に入ると、いよいよ本格的な梅雨の到来により気温も上昇し、豪雨の季節が訪れる。
この時期を「ホンナガシ(本長雨)」と呼ぶ。
海上にこんもりと小高い森が浮かぶような奄美大島では、南からの湿った風が山肌を駆け上がることに
より雲を作りやすいため、空梅雨は滅多にない。通年雨の多い土地ではあるが、この梅雨季の降水量は
圧倒的に多い。
梅雨本番の頃の花はイジュやコンロンカ、クチナシなどの白い花が多く、甘い香りが鼻をくすぐる。
ソテツの雄花が咲き(上がり)始め、羽蟻の大量発生が起こることもホンナガシの季節を告げるわかり
やすい現象で、島では「ソテツの雄花が高く上がり羽蟻が3回飛んだらそろそろ梅雨明け」と言い伝え
られている。

そして梅雨前線が北上し、ソテツの雄花が枯れ始める頃に島の長い夏は始まる。
北九州や日本海附近を通る低気圧へ向け、奄美大島近海では張り出した太平洋高気圧の縁を回る南〜南西
の風がやや強く吹き続ける。この風を「アラバイ(新南風)」と呼ぶ。
夏の訪れを告げるこの風は半月ほど吹き続け、この風が止むと安定した夏の天気となる。
アラバイが吹く期間を含めて、7月末ごろまでの30日間ほどの天気は旧暦の6月にあたることから「ロクガツ
ヒドリ(六月日照)」と呼ばれる。青い空と碧い海が鮮やかな心が弾むこの季節は台風が襲来することも
少なく、一年で最も安定した晴天となり、月の無い夜には夜空に白く輝く天の川と満天の星が美しい。

本土からここに移り住んだ頃は、本土の気候で言えば晩秋から初春へ冬を通り越して一気に季節が進んで
しまうため、日本らしい四季の感覚が薄らいでしまうことを少し残念にも感じていた。
しかし、12年暮らしてみると島では四季どころか12にも季節を区別して一年を追っており、その中でも季節
ごとの気圧配置による天候の特徴を表す島特有の風や雨などの名前が存在し、鳥や植物や風の匂いがとても
詳細に季節の移り変わりを告げてくれることがわかった。
昨日も家の前の浜に犬の散歩に出ると、梅雨明けを待っていました!と言わんばかりにオカヤドカリの
足跡が無尽に走っていた。

今年も眩しいこの季節がやってきた。
「六月日照」の名前の通り、日照りの続くこの時期からしばらくの間、島の野菜はほぼ瓜科一色。
きゅうり・シマウリ・アカウリ・冬瓜・ゴーヤー…次々といただく瓜たちを今年もどう料理しよう?

K