BIRD SONG JOURNAL / クガツクンチ(九月九日)

2021.11.2

旧暦9月9日(クガツクンチ)。奄美大島では一年間の無病息災を感謝し今後一年間の幸運を祈る日とされて
おり、各地で豊年祭や綱引き等が行われる。

毎年サシバが渡って来て秋の気配を感じ始める旧暦の9月9日、龍郷町の安木屋場(アンキャバ)集落では、
自然界の神々に祈りをささげる「今井大権現祭」が行われる。
旧暦で行われるこの祭事は月の暦に沿うため「月齢はほぼ9日」であり、潮の満ち引きの時間もほぼ決ま
っている。

祭りは潮が満ち始める午前中、立神を臨む浜辺の祭り岩でユタ(島のシャーマン)の親神が神口を唱え、
白装束の女性らがススキを手に祈って海の彼方から女神を招く。続いて159の急な石段を登り、神社の祭壇に
米や果物を供え、近くの森の中で男神を君臨させる儀式を行い、太陽の男神を降臨させる。
以前はたくさんのユタが執り仕切ったこの祭りでは、太鼓が打ち鳴らされ、祝詞、掛け声とともにユタ
たちの踊り・祈りが激しくなり、神がかり的な状態となったそうで、男女2神を結び合わせ、神社に
お供した後、地域住民らが次々と社殿を訪れて祈願し、社殿でもまた踊りが行われたそうである。
白装束に身を包んだ多くのユタが島内外から集い、海と山を巡る年に一度のこの神祭りが執り行われて
いたが、2015年に同神社神主を務めた親ユタの方が逝去して以降は、麓の安木屋場集落の住民らが祭りの
運営を引き継いだ。

山がちな地形のこの島の集落は、入江の砂浜からそれを取り囲む山へかけての僅かな平地に慎ましく形成
されており、現代のように道路が整備される前は、隣り合う集落へ行くためにはハブのいる険しい山を越え
なければならなかった。
そのような地形の成り立ちもあってか、島内約200の集落では受け継がれてきた慣わしやシマ唄・踊りなどが
皆少しずつ違っているが、自然や先祖・先人への敬意と感謝を噛み締め祈りを捧げるためのものが多い。
かつては主に農業(稲作)の流れに沿っていたため、何日もかけて行ってきた行事なども、現代の社会生活
に応じてやむなく簡略化するなどしながら集落部に住まいする住民たちが大切に守ってきた。

流通が発達しなかった時代に人の命を育んだのは、それぞれの集落の自然環境であり、厳しい気象条件の
中で作物を生産し、漁(猟)によって獲物を得て命を繋いだ先祖。
シマ(集落)の人々は月に2度、満月と新月の日に先祖の墓を綺麗に掃除し花を生け替えるため、奄美の
お墓はとても美しい。お盆や正月には先祖のお墓のみならず、親戚の墓にまでもしっかりとお参りする方が
多いことからも自身のルーツに想いを馳せることが日常であることがうかがえる。
それらへの感謝の心を伝える様々な行事がこの現代まで繋がれていることは、間違いなく島の誇りである。

世界自然遺産に登録されたことで、多くのメディアが奄美大島の素晴らしい自然の成り立ちについての
特集を組み始めているが、奄美大島の自然について語るとき、本当の意味ではこの島で育まれてきた文化と
切り離して語ることは難しい。
表面的な美しさばかりが取り上げられることが多い中、ぜひ「歴史・文化」という一面にもスポットを
当てていただくと、本当の島の姿を垣間見ていただけるのではないかと思う。

K